函館家庭裁判所 昭和46年(家)69号 審判 1971年3月12日
申立人 米田光子(仮名)
事件本人 米田英夫(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
申立人は、申立人は事件本人の長女であるが、事件本人は精神病のため昭和四六年一月二一日より函館市○○町所在の○○病院に入院加療中であるところ、事件本人には法定の保護義務者がないので、申立人をその保護義務者に選任することを求める、と述べた。
よつて、上記申立を当否について検討するに、まず、精神衛生法第二〇条は精神障害者に対して保護義務者が付される旨規定しているが、その精神障害者とは、広く精神に障害のある者一般を指すのではなく、同法第三条により精神病者、精神薄弱者ならびに精神病質者に限定されているのであつて、しかも、同法上の精神障害者は強制入院等その意思に反する自由の拘束をうけることがあることに鑑みると、これらの用語の意味については厳格に解釈すべきものであつて、医学的な見地から精神病者、精神薄弱者ならびに精神病質者とされない者については、少なくとも精神の障害のため自傷他害のおそれが顕著でない限り、同条にいう精神障害者に含まれないと解すべきである。
これを本件についてみると、医師松井庄市作成の診断書ならびに申立人に対する審問の結果によれば、事件本人は申立人主張の日時に申立人主張の○○病院に入院したものであるが、それはアルコール嗜癖を矯正するためであつたこと、すなわち、事件本人は入院前毎晩飲酒に耽り、飲酒しないと安眠することができず、またときどき深酒をして翌日欠勤する状態であり、事件本人はこれを矯正するため自発的に入院したものであること、また事件本人は日常生活においては通常人とさして変つたところはなく、飲酒酩酊した際にも格別凶暴になる訳ではないこと等の事実が認められ、以上の事実によれば、事件本人は、医学上にいう精神病者、精神薄弱者ならびに精神病質者のいずれにも該当せず、また飲酒による精神障害にもとづく自傷他害のおそれも顕著ではなく、したがつて、事件本人は精神衛生法にいう精神障害者ではないことが明らかである。
よつて、事件本人を上記精神障害者であることを前提とする本件申立はその余の点を判断するまでもなく失当であるから、これを却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 竹田央)